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江口はワクワクしていた
女性にモテないんですともらすと部長が女の子を紹介してくれたからだ
しかもかなり若いらしい
待ち合わせ時間に遅刻して、汗だくで現れた江口を待っていたのは女子高生だった
若すぎ!
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俺と10歳以上違うじゃん
これってもしかしてパパ活ってやつでは?
捕まりたくないんですけど!
「人違いだったみたいです」引き返そうとする江口のシャツの襟を少女が後ろからひっぱった
「35分遅刻、謝罪もありません。
再発防止のために、振り返りと課題設定が必要です」
は?
彼女は胸のポケットから小さい手帳を取り出した。
けけけ警察!囮捜査か!?
「ここでは書けません。店に入りましょう」
かく?っていうか店?
イヤー!
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そこは思ったのと違う店だった
女性で埋め尽くされたおしゃれカフェ
目の前には、彼女が頼んだスイーツタワーがどんと構えていた
俺は財布を開けて涙ぐみながら、彼女に聞いた
「これは何かの間違いなのでは?」
「間違いでは、ふむっ、ありま、んんん」
「喋るか食べるかどっちかにしてくれ」
もぐもぐ。
「食べるんだ…」
スイーツの山はあっという間に消えた
彼女は丁寧に口元を拭い
「間違いではありません。この会食の目的は手帳タイムです」
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綺麗に整えられたテーブルに、手帳がドンドンと積まれていく。
「今から手帳タイムをします」
「あなたとこれまでの時間過ごして、あなたの抱える問題と課題がわかりました」
なるほど!
部長は俺に女の子を紹介する体で、会社から指導員を派遣したんだろう
確かに最近、業績悪いからな
「振り返りと課題設定をします」
だからそれって何と言おうとして、内ポケットに手を入れられた。
顔が近くなる。
「持ってるじゃないですか、手帳」
入社祝いにもらったものだ。お守りみたいに持ち歩いているだけで使っていない。
「ロロマクラシックのM5ですね」
…呪文?
「レイメイ藤井のダヴィンチシリーズのロロマクラシックです。M5はマイクロファイブ、5穴のシステム手帳ということです」
ますますわからん!
「この手帳を使って、あなたの生活習慣を改善しようということです」
「この手帳は女性人気が高いですし、この手帳を使いこなせる男性は好感度高いですよ?」
俄然やる気が出てきた!
小さくガッツポーズする俺は、彼女がニヤリとしたのに気づかなかった
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ついていけないうちに、彼女はどんどん話を進める。
「スケジュール管理にはバーチカルタイプがいいです。システム手帳はリフィルが入れ替えられるので、バーチカルのリフィルを足しましょう」
「これに予定を書き込むということですか?」
「書き込むのは予定ではありません。記録です。何時に家を出たか何時に着いたか、何分待たせたのか。書き残しておくことが大切です。」
「なるほど」
「今の記録を書いてみますか?」
「は、はい」
会社の紹介で、スケジュール管理の指導を受けている。っと
その文字を見て彼女は静止した
しばらくの沈黙が流れる
「違います。今は指導ではなく、デートの時間です」
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ええー!
「てっきり会社から派遣されたコーチの方かと…」
「いえ、紹介された女の子です」
どうやら彼女を探していた俺に、彼女候補を紹介しくれるという話で間違いなかったらしい。若すぎるが。
「手帳は私の趣味です。趣味の手帳を使って、あなたの遅刻癖や礼儀を正せればと思いました。その長く…お付き合いしたいので」
と彼女は頬を染めた
僕は思わず頬が緩んだ
「遅刻して申し訳ありませんでした。次は遅刻しないように、手帳を使って管理します。だから、その…」
彼女は期待のこもった目で僕の言葉の続きを待った
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「またこのお店でてちょ活してください」
彼女は嬉しそうにひときわ分厚い手帳で口元を顔を隠した。